「薬剤師は飽和する」という話は、もう何年も繰り返されています。知りたいのは、それがいつなのか、どのくらいの規模なのかです。この問いに、国は数字で答えを出しています。厚生労働省の検討会が2021年にまとめた需給推計は、2045年までの薬剤師の需要と供給を試算し、今後数年間は均衡が続くが、長期的には供給が需要を上回ると結論づけました。この記事では、その推計の数字を読み、前提に含まれる幅を確認したうえで、いま働いている薬剤師がこの数字をどう受け止めればよいかを整理します。

推計が出した数字
厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」で示された需給推計は、2020年から2045年までを対象にしています。全国総数の結果は次のとおりです(出典: 厚生労働省「薬剤師の需給推計(案)」検討会資料)。
| 区分 | 2020年 | 2045年 |
|---|---|---|
| 需要(機械的な推計) | 32.0万人 | 33.2万人 |
| 需要(業務の変化を考慮) | 32.0万人 | 37.2〜40.8万人 |
| 供給(毎年一定数が増える前提) | 32.5万人 | 45.8万人 |
| 供給(合格者が今後減ると仮定) | 32.5万人 | 43.2万人 |
2020年時点では、需要32.0万人に対して供給32.5万人と、ほぼ釣り合っています。25年後の2045年には、需要をもっとも高く見積もった40.8万人に対しても、供給をもっとも低く見積もった43.2万人が上回ります。どの前提を組み合わせても、2045年には供給が需要を超える計算です。
この推計をふまえ、検討会は2021年6月30日のとりまとめで、薬剤師の総数としては今後数年間は需要と供給が均衡している状況が続くが、長期的に見ると供給が需要を上回ることが見込まれる、と整理しました(出典: 厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ」令和3年6月30日)。
「いつ」への答えは、前提によって動く
飽和がいつ始まるかは、需要と供給のどの線を採るかで変わります。推計の資料は、需要について「おおむね今後10年間は増加するが、それ以降は人口減少の影響を受ける」とし、供給について「養成人数が変わらなければ毎年一定数増加する」と説明しています。
需要の幅を作っているのは、業務の変化です。機械的な推計では2045年に33.2万人ですが、対人業務の充実や在宅医療の拡大を織り込むと37.2〜40.8万人まで増えます。薬局の薬剤師について、在宅業務は2045年までに2倍になるという仮定が置かれています。逆に、機械化や情報技術による効率化は、需要を押し下げる方向に働きます。
供給の幅を作っているのは、国家試験の合格者数です。推計では、直近5回の合格者の平均9,634人が毎年合格し続ける場合を基本としています。人口減少で大学進学者が減り、合格者も減ると仮定した場合が、43.2万人という低いほうの線です。
つまり、「いつ」は一つの年で答えられるものではなく、業務がどれだけ広がるか、養成の規模がどう変わるかで動くものです。ただ、どの組み合わせでも2045年には供給が上回るという方向は変わりません。
総数の話と、自分の職場の話は別
この推計で見落としてはいけないのは、数字が「全国の総数」だということです。
同じ推計は、都道府県別の需給も試算しています。そして、現在の統計はすでに地域差を示しています。厚生労働省の令和6年の統計では、届出薬剤師は329,045人で、2年前から1.7%増えました(出典: 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」)。一方で、人口あたりの薬剤師数には都道府県の間で約1.6倍の差があり、国は薬剤師の偏在指標を設けて少ない地域を指定しています。
業態の差もあります。推計は、薬局に従事する薬剤師の需要が2020年の19.0万人から2030年の21.1万人をピークにほぼ一定になると見る一方、病院については、機械的な推計では病床数の減少にともなって5.3万人から4.7万人へ減るものの、病棟業務が広がれば増えるという幅を示しています。
全国で供給が上回る時期が来ても、それがあなたの地域、あなたの業態で同じように起きるとは限りません。 総数の数字を自分の職場にそのまま当てはめると、判断を誤ります。地域差の実態は地方で働く薬剤師という選択で、業態ごとの人の動きは薬剤師の将来性は本当に厳しいのかで整理しています。
2045年の数字を、いま働く人はどう使うか
推計の対象は25年先です。いま30代の薬剤師なら、定年に近い時期にあたります。この数字を、いま何かを急ぐ理由にするのは適切ではありませんが、無視するのも賢明ではありません。使い方は3つです。
1つ目は、需要が増える側に自分の経験を置くことです。推計が需要増の要因として挙げているのは、対人業務の充実と在宅医療の拡大です。服薬指導の質、在宅への対応、多職種との連携は、需要が増える方向の業務です。調剤の処理量だけを強みにしていると、機械化で需要が減る側に立つことになります。
2つ目は、地域と業態を、総数とは別に見ることです。自分の働く地域が薬剤師の少ない地域なのか多い地域なのか、業態の需要が増える見込みなのか減る見込みなのかを、推計の都道府県別の試算と、偏在指標で確かめてください。
3つ目は、養成の規模の動きを追うことです。とりまとめでは、薬剤師が過剰になると予想される状況下で、入学定員の抑制を含めた適正な定員規模のあり方が論点として挙げられています。定員の見直しが実際に進めば、供給の線は下のほうへ動きます。推計は固定された未来ではなく、政策で動く前提の上にあります。
飽和の予測は、「薬剤師という資格が要らなくなる」という話ではなく、「同じ資格の中で、何を担う人かで差がつく」という話です。 転職を考えるかどうかにかかわらず、いまの職場で担っている業務がどちらの側にあるかを、一度確かめてみてください。
よくある質問
薬剤師はもう飽和していますか
国の需給推計では、2020年時点の需要32.0万人に対して供給32.5万人と、ほぼ均衡していると評価されています。とりまとめも「今後数年間は均衡している状況が続く」としています。ただし、全国の総数の話であり、地域や業態によっては、すでに人が余っている場所も、足りない場所もあります。
2045年に薬剤師が余るなら、いまのうちに転職すべきですか
推計は25年先の総数を示すもので、いま急いで動く根拠にはなりません。判断に使うなら、自分の地域と業態の需給、そして自分が担っている業務が需要の増える側にあるかどうかを見てください。転職の時期の考え方は薬剤師の転職タイミングの考え方で整理しています。
推計の数字は今後変わりますか
変わる可能性があります。推計は、国家試験の合格者数や業務の変化について仮定を置いて試算したものです。薬学部の定員の見直しや、業務の広がり方によって、需要と供給の線は動きます。とりまとめでも、入学定員の適正化が論点として挙げられています。
まとめ
- 厚生労働省の需給推計では、2045年の薬剤師の需要は33.2〜40.8万人、供給は43.2〜45.8万人。どの前提でも供給が需要を上回る
- 2021年6月のとりまとめは、今後数年間は均衡が続き、長期的には供給が需要を上回ると整理した
- 「いつ」は、業務の変化と国家試験の合格者数という前提で動く。一つの年では答えられない
- 推計は全国の総数。地域差は約1.6倍あり、業態でも需要の見通しは違う
- 数字の使い方は、需要が増える側の業務に経験を置くこと、地域と業態を別に見ること、養成規模の動きを追うこと
参考にした一次資料
- 厚生労働省「薬剤師の需給推計(案)」(薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料1)
- 厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ」(令和3年6月30日)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」
本文の統計は、これらの原典を編集部が直接確認したうえで引用しています。推計値は仮定条件のもとでの試算であり、条件によって変わりうるものです。数値は資料の更新に合わせて見直します。
制度や統計に関する記載は一般的な説明です。個別の判断は、ご自身の地域と職場の状況を確かめたうえで行ってください。
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