「指導だから耐えるべきか、打たれ弱いだけなのか」という二択で悩んでおられますが、まずその二択を一度手放してみませんか。出勤前に動悸がして涙が出る、というのはすでに体が出している明確なサインで、根性や気の持ちようで扱う段階を越えています。ここでは、いま起きていることが指導としてどうなのかを整理する物差しと、段階的にできることをお伝えします。
同じ悩みは、新人相談の定番です
最初に言い切れることをひとつ。プリセプターとの関係で追い詰められるという悩みは、新人看護師の相談の中でも特に多い部類に入ります。勤務表を見てその先輩と重なる日を数えてしまう、質問ができなくなる、休憩室が怖い。どれも同じ状況に置かれた新人からよく語られる内容で、あなたが特別に弱いから起きていることではありません。
同期の「うちのプリセプターは優しいよ」という言葉で落ち込んだ、というくだりも補足しておきます。それはプリセプターの当たり外れの話であって、新人側の出来の話ではありません。同じあなたが優しい指導者につけば、おそらく普通に質問し、普通に育っています。
指導とハラスメントの、一般的な線引き
線引きの物差しとしてよく使われるのは、業務上必要な範囲の指摘かどうか、という観点です。
指摘の内容が業務に向いているか、人格に向いているか。「この場面ではこう動く」「この手技はここを直す」は、厳しくても業務の情報が含まれた指導です。一方で「そんなことも分からないの」には、次にどうすればいいかの情報がありません。患者さんの前で強く叱ることも、教育的な効果より萎縮とみせしめの色が濃くなりがちで、指導の場面として適切とは言いにくいものです。そして『前も言ったよね』で質問を封じるのは、指導というより指導の放棄に近い対応です。
もっとも、境界の判断は実際には難しいものです。一つひとつの場面を切り取れば「厳しめの指導」と言えなくもないことが、頻度と積み重ねによって別の意味を持つこともあります。この記事だけで「それはハラスメントです」と断定することはできません。それでも、人格への否定、人前での叱責、恐怖で萎縮させる形が繰り返されているなら、業務上必要な指導の範囲を超えている可能性があります。少なくとも「耐えるのが当たり前」と自分に言い聞かせて済ませていい状況ではありません。
「怖くて聞けない」は、あなたの問題ではなく安全の問題
ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。新人が質問できなくなっている状態とは、確認が必要な場面で確認が行われないまま業務が進む状態のことです。疑問や違和感を口に出しやすい環境は、医療安全の前提として重視されています。つまりあなたの悩みは「私が我慢すれば済む」個人の問題ではなく、患者さんの安全に関わる体制の問題に、すでになっています。
この捉え直しは、誰かに相談するときの語り方としても使えます。「先輩が怖い」と伝えると人間関係の愚痴として扱われかねませんが、「確認が必要な場面で質問できない状態になっている」と伝えれば、相性の問題ではなく安全の問題として受け取られやすくなります。相談していいのか、という迷いへの答えもここにあります。体制の問題なのですから、相談するのがむしろ筋です。
段階的にできること
いきなり大きく動く必要はありません。順番にいきましょう。
最初の一歩は、事実の記録です。日付、場面、言われた言葉、その場に誰がいたか。感情の言葉はなるべく削って、短く書き留めておきます。記録は相談するときの材料になるだけでなく、「私の受け取り方の問題かもしれない」という迷いを整理する道具にもなります。並べてみて初めて頻度に気づく、ということはよくあります。
次に、教育担当の看護師や師長への相談です。切り出し方は前述のとおり、業務への支障を軸に。そのうえで、プリセプター変更を相談するのは制度としておかしなことではありません。プリセプター制度は相性の問題が起こりうる前提で運用されるものですし、組み合わせの調整は本来、教育側の仕事のうちです。変更の相談は告げ口でも敗北でもなく、運用の調整の依頼にすぎません。
相談したのに何も変わらない、という展開もありえます。教育担当に話が通じなければ師長へ、師長で止まるなら看護部の相談窓口へと、相談先を一段ずつ上げていくのが基本の動き方です。そこでも部署内で変化がないなら、部署異動の相談が次の段階になります。そして環境を変えても状況が改善しない、あるいは相談自体を握りつぶされるようであれば、1年目であっても職場を変える選択肢はあります。「まず1年」という言葉には一定の理屈もありますが、心身を削りながら守るほどの重みはありません。
身体症状が出ているなら、受診をためらわない
動悸、涙、眠れない、食欲が落ちる。こうした症状が続いているなら、心療内科や精神科の受診をためらわないでください。新人が数か月で受診なんて大げさだ、と感じるかもしれませんが、体がサインを出している以上、診てもらうのは自然な対応です。診断や休養の要否は医師が判断してくれますし、受診の記録は後々あなたを守る材料にもなります。
体を立て直すことが先で、キャリアの判断はその後です。順番を逆にしないでください。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 叱責の内容が業務の改善に向いているか、人格に向いているか振り返ってみたか
- 日付・場面・言われた言葉の記録を始めたか
- 「質問できない状態になっている」と安全の問題として伝える準備をしたか
- 教育担当や師長など、プリセプター以外の相談先を確認したか
- プリセプター変更の相談が可能か、職場の運用を確認したか
- 動悸や不眠などの症状が続いていないか、心身の状態を確認したか
- 症状が続いているなら、受診を検討したか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。
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