「管理薬剤師は、残業代が出ないものなのでしょうか」。先に答えます。そうとは限りません。会社の説明には、2つの別々の制度が混ざっています。薬局の管理者であることと、労働時間の規定が適用されない立場であることは、根拠になる法律も、判断の基準も違います。この記事では、その2つの違いを条文で確認し、どんな点で判断されるのか、会社にどう確認するかを整理します。
2つの「管理」は別の制度
管理薬剤師という名前の根拠は、医薬品医療機器等法(薬機法)7条です。薬局には管理者を置くことが義務づけられていて、その管理者が管理薬剤師と呼ばれています。同法8条は、管理者の役割を、従業者の監督、構造設備や医薬品の管理、業務についての必要な注意と定めています。これは、薬局という施設を保健衛生の面で適切に運営するための役割です。
一方、残業代に関わるのは労働基準法です。同法41条2号は、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」について、労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しないと定めています。会社の言う「管理職だから残業代の対象外」は、この規定を指していると考えられます。
薬機法の管理者であることは、労働基準法41条の管理の地位にあることを意味しません。 条文のどこにも、2つを結びつける定めはありません。薬局を管理する責任を負っていることと、労働時間の規制から外れるほどの立場にあることは、別々に判断されます。
何で判断されるのか
労働基準法41条2号の対象になるかどうかは、肩書きではなく実態で判断されます。一般に見られるのは、経営者と一体的な立場で仕事をしているか、という点です。具体的には、次のような事情が問われます。
- 採用、配置、人事評価など、労務管理について決める権限があるか
- 自分の出退勤や働く時間を、自分の裁量で決められるか
- その立場にふさわしい待遇を受けているか
ご相談の内容を当てはめてみます。シフトは本部が決めている。採用や給与には関わっていない。手当は月3万円で、なくなった残業代のほうが多い。3つの点のどれを見ても、労働時間の規制から外れる立場だと説明するのは難しい状況です。
もう1点、確認しておきたいことがあります。41条が適用を外しているのは「労働時間、休憩及び休日に関する規定」です。仮に管理の地位にあると判断される場合でも、何もかもが対象外になるわけではありません。どの手当が出て、どれが出ないのかは、会社に具体的に確かめる必要があります。
手当と残業代を比べる
感覚ではなく、数字で比べてみてください。
管理薬剤師になる前の給与明細を出して、残業1時間あたりの単価を確かめます。それに月30時間を掛けた額が、いま受け取れていない残業代のおおよその見積もりになります。この額と、月3万円の手当を並べてください。
手当のほうが少ないなら、管理薬剤師になったことで、責任は増えて手取りは減っていることになります。これは、会社と話すときの具体的な材料です。「納得がいかない」と伝えるより、「以前の残業代は月◯円、現在の手当は3万円で、差額が◯円あります」と伝えるほうが、話は進みます。
あわせて、残業の記録を残してください。出勤と退勤の時刻、閉店後に行った作業の内容を、毎日メモしておきます。薬歴の入力時刻やレセコンのログなど、客観的に残っているものがあれば、その存在も控えておきます。
会社への確認の順番
いきなり「違法ではないか」と切り出す必要はありません。確認として尋ねるところから始めてください。
最初に、根拠を書面で示してもらいます。「管理薬剤師が残業代の対象外になる根拠を、就業規則の該当箇所で教えてください」。就業規則や賃金規程に、管理薬剤師の扱いがどう書かれているかを確かめます。
次に、手当の性質を尋ねます。月3万円の手当に、一定時間分の残業代が含まれているという扱いなのか、役職への対価なのか。含まれているのであれば、何時間分なのかが明示されている必要があります。
そのうえで、実態を伝えます。シフトを自分で決めていないこと、人事に関わっていないこと、手当より残業代のほうが多かったこと。事実を並べて、扱いの見直しを求めてください。
会社の中で進まない場合は、労働基準監督署に相談できます。割増賃金は労働基準法37条に定められた事項で、監督署の所管です。就業規則の該当箇所、給与明細、残業の記録を持っていくと、話が早く進みます。
管理薬剤師を続けるかどうかも、この機会に考えて構いません。責任と待遇が見合わないまま続けることが、いちばん消耗します。引き受けるかどうかの考え方は管理薬剤師を経験3年で打診されましたに、辞めたいときの整理は管理薬剤師を辞めたいのに「後任がいないから無理」と言われたらにまとめています。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 管理薬剤師になる前の給与明細で、残業1時間あたりの単価を確かめたか
- なくなった残業代の見積もりと、管理薬剤師手当の額を並べて比べたか
- 出退勤の時刻と、時間外に行った作業を毎日記録しているか
- 就業規則と賃金規程で、管理薬剤師の残業代の扱いを確認したか
- 手当に残業代が含まれる扱いなのか、何時間分なのかを尋ねたか
- シフトの決定、採用や評価への関与など、自分の権限の実態を書き出したか
- 会社への確認を、メールなど記録に残る形で行ったか
- 社内で進まない場合の相談先(労働基準監督署)を調べたか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。個別の状況については、労働基準監督署などの公的窓口や専門家にご確認ください。
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