病院で働いてみたい。ただ、いきなり正職員で入るのは不安なので、まず派遣で様子を見たい。そう考えて求人を探すと、病院の派遣求人がほとんど見つからないことに気づきます。理由は求人の少なさではなく、法律です。病院で行う調剤の業務に薬剤師を派遣することは、原則として禁止されています。 ただし例外が3つあり、派遣以外で病院に関わる方法もあります。この記事では、禁止の範囲を条文で確認したうえで、例外の中身と、病院で働きたい薬剤師が現実に取れる道を整理します。

禁止されているのは何か
労働者派遣法4条1項は、派遣事業を行ってはならない業務を定めています。港湾運送や建設などと並んで、3号に「政令で定める業務」があり、その中身が労働者派遣法施行令2条に書かれています。
同条1項3号が挙げているのは、薬剤師法19条に規定する調剤の業務のうち、病院等または介護医療院において行われるものです。病院等には、病院と診療所が含まれます(厚生労働省令で定めるものを除く)。
ここから読み取れることが2つあります。
1つは、禁止の対象が「調剤の業務」であり、場所が病院・診療所・介護医療院に限られていることです。調剤薬局やドラッグストアは、この禁止の対象ではありません。薬剤師の派遣求人が薬局に集中しているのは、このためです。
もう1つは、禁止が派遣会社だけでなく受け入れる側にもかかることです。同法4条3項は、派遣を受け入れる者に対しても、派遣労働者を禁止業務に従事させてはならないと定めています。さらに同法40条の6は、この規定に違反して派遣労働者を受け入れた場合、受け入れた側がその派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす、という重い効果を定めています(違反にあたると知らず、知らなかったことに過失がない場合を除く)。病院が派遣の受け入れに慎重なのは、当然のことです。
3つの例外
施行令2条は、禁止の対象から外れる場合を定めています。薬剤師の調剤業務に関係するのは、次の3つです。
| 例外 | 内容 |
|---|---|
| 紹介予定派遣 | 派遣期間の前後に職業紹介を行い、直接雇用へ移ることを予定した派遣(派遣法2条4号) |
| 産休・育休・介護休業の代替 | 派遣先の労働者が産前産後休業、育児休業、介護休業などを取る場合に、その人の業務を代わりに行う派遣(派遣法40条の2第1項4号・5号) |
| へき地 | 派遣労働者の就業の場所がへき地にある場合 |
実際に出会う可能性が高いのは、紹介予定派遣と、産休・育休の代替です。
紹介予定派遣は、一定期間働いたあと、本人と病院の双方が合意すれば直接雇用に切り替わる仕組みです。職場の様子を見てから決められる点は、希望に近いはずです。ただし、直接雇用が約束されているわけではなく、期間の終わりに断られることも、こちらから断ることもあります。
産休・育休の代替は、休業する職員が戻るまでの期間限定の仕事です。期間がはっきりしているので、病院の業務を経験してみたい人には合っています。一方で、休業者が復帰すれば終了するため、長く働く前提にはなりません。
どちらも求人の数は多くありません。派遣会社に登録するときに、病院の紹介予定派遣や代替要員の案件を扱っているかを、最初に確認してください。
派遣以外で病院に関わる方法
派遣が難しいからといって、病院で働く道が正職員しかないわけではありません。
禁止されているのは「派遣」という形です。病院が薬剤師を直接雇用する非常勤やパートは、この禁止とは関係がありません。週に数日、あるいは短時間から病院の業務に入りたい場合は、派遣会社ではなく、病院の直接雇用の求人を探すのが筋です。
病院薬剤師の仕事は、調剤薬局とは中身がかなり違います。注射薬の調製、病棟での服薬指導、多職種でのカンファレンス、当直や夜勤の有無。非常勤でどこまでの業務を担当できるかは病院ごとに違うので、応募の前に確認しておくと、入ってからの食い違いを防げます。
厚生労働省の令和6年の統計では、病院で働く薬剤師は57,595人で、平均年齢は42.5歳と、施設の種別の中でもっとも若くなっています(出典: 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」)。若い人が多い職場に、薬局の経験者として入ることになります。病院で何を経験したいのかを言葉にできると、非常勤でも担当できる業務の相談がしやすくなります。 病院の待遇面の現実は病院薬剤師の待遇問題|辞めて後悔する類型・しない類型にまとめています。
「病院の派遣求人」を見かけたときの確認点
それでも、病院やクリニックでの派遣をうたう求人を見かけることがあります。その場合は、次の点を確かめてください。
- 例外のどれにあたるのか。紹介予定派遣なのか、産休・育休などの代替なのか、へき地なのか
- 紹介予定派遣の場合、派遣期間と、直接雇用に切り替わるときの雇用条件(常勤か非常勤か、給与)
- 代替の場合、休業する人の復帰予定と、契約の終了時期
- 担当する業務の内容。調剤の業務にあたるのかどうか
例外のどれにもあたらないのに、病院内の調剤業務に派遣で入る形になっているなら、その求人は法律上の問題を抱えている可能性があります。説明があいまいなまま進めず、派遣会社に根拠を確認してください。 判断に迷う場合は、各都道府県労働局の需給調整事業の担当部署に相談できます。
派遣という働き方全体の注意点は薬剤師派遣のデメリットとはに、派遣から正社員へ移る道筋は派遣薬剤師から正社員に戻れるかに整理しています。
よくある質問
診療所やクリニックなら派遣で働けますか
施行令2条の「病院等」には診療所が含まれるため、診療所で行う調剤の業務も、原則として派遣の禁止対象です。働ける場合は、病院と同じく、紹介予定派遣や産休・育休の代替などの例外にあたるときに限られます。
紹介予定派遣で入れば、正職員になれますか
直接雇用を予定した仕組みですが、約束されているわけではありません。派遣期間の終わりに、本人と病院の双方が合意して初めて切り替わります。雇用形態や給与が派遣中と変わることもあるため、切り替え後の条件を派遣開始前に確認しておくことをおすすめします。
病院の非常勤と派遣は、何が違いますか
雇い主が違います。非常勤は病院と直接雇用契約を結びます。派遣は派遣会社と雇用契約を結び、病院の指揮命令を受けて働きます。病院内の調剤業務について原則禁止されているのは後者で、前者は禁止の対象ではありません。
まとめ
- 病院・診療所・介護医療院で行う調剤の業務への薬剤師の派遣は、原則として禁止されている(派遣法4条、施行令2条)
- 受け入れる側にも禁止がかかり、違反すると原則として労働契約の申込みをしたものとみなされる(派遣法40条の6)
- 例外は、紹介予定派遣、産休・育休・介護休業の代替、へき地の3つ
- 病院が直接雇用する非常勤やパートは、派遣の禁止とは関係がない
- 病院の派遣求人を見かけたら、どの例外にあたるのか、期間、切り替え後の条件、業務内容を確認する
参考にした一次資料
- e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」第2条・第4条・第40条の2・第40条の6
- e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」第2条
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」
本文の条文と統計は、これらの原典を編集部が直接確認したうえで引用しています。
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。個別の求人や契約については、派遣会社、応募先の病院、労働局にご確認ください。
関連記事: 薬剤師派遣のデメリットとは|病院禁止・3年ルール・収入面を解説


