薬剤師

薬剤師の将来性は本当に厳しいのか|統計で確かめる「飽和」の中身と、動くなら押さえる3つの軸

全国の薬剤師分布と職場別統計を確認する薬剤師のイラスト

「薬剤師はもう飽和している」「調剤はいずれ機械とAIに置き換わる」。SNSや動画でこうした言葉を目にして不安になった、という相談は若手から中堅の薬剤師に共通しています。先に結論を書いておきます。国の統計が示している「飽和」の中身は、全国一律の余剰ではなく、場所と業態による偏りです。薬剤師の総数はたしかに増えていますが、減っている職場と増えている職場があり、人口あたりの薬剤師数には都道府県間で約1.6倍の開きがあります。この記事では、不安の根拠になっている数字を一つずつ分解し、AI・機械化の話をどう受け止めればよいかを整理したうえで、もし動くのであれば押さえておきたい3つの軸をまとめます。転職を勧める記事ではなく、現在地を確かめるための記事です。

「飽和」と言われる根拠を分解する

飽和論の出発点は、薬剤師の総数が増え続けているという事実です。厚生労働省の「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、届出薬剤師の総数は329,045人で、前回調査から5,355人・1.7%増えています(出典: 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」)。増えていること自体は統計のとおりで、ここを否定する必要はありません。

問題は、この数字がどう読まれているかです。「増えている」がそのまま「余っている」に読み替えられている場面が多い。しかし、人数が増えることと余ることは同じではありません。余っているかどうかは人数だけでは決まらず、その人たちがどこで、どの業務に就いているか、そして必要とされる場所に届いているかで決まります。

統計が示す職場の移動

同じ統計の従事先の内訳を見ると、総数1.7%増の内側で、方向のまったく違う動きが起きています。

薬局に従事する薬剤師は197,437人で全体の60.0%を占め、前回比で6,702人・3.5%の増加。医療施設(病院・診療所)は63,290人で1.3%増、うち病院は57,595人です。一方、医薬品関係企業は34,184人で2,902人・7.8%の減少、そのうち店舗販売業に限ると17.2%の減少になっています(出典: 同統計)。つまり、減っているのは調剤の現場ではなく企業側です。総数の伸びを上回る勢いで薬局が増え、企業が縮む。統計が示しているのは「薬剤師が余っている」という一つの状態ではなく、「薬剤師の働く場所が移っている」という動きです。

年齢構成も見ておく価値があります。施設別の平均年齢は病院42.5歳、薬局46.8歳、診療所58.4歳。病院は全施設のなかで最も若い集団で、若いうちに病院で経験を積み、年齢とともに薬局などへ移っていく流れが数字に表れています。病院薬剤師の不足は国自身が課題として明記しており(次の節で触れます)、少なくとも「病院は人が余っている場所」ではないことが、この年齢構成からも読み取れます。「飽和」という言葉を聞いたら、どの業態の話かを確かめてください。

地域・職場・仕事の力という三つの軸で将来を考える薬剤師のイラスト

偏在という現実

業態の偏りに加えて、もう一つの偏りがあります。地域です。

人口10万人あたりの薬局・医療施設従事薬剤師数は全国平均210.6人。最多の徳島県が256.6人、最少の沖縄県が155.3人で、その差は約1.6倍にのぼります。福井県170.4人、青森県175.5人など、平均を大きく下回る県はほかにもあります(出典: 同統計)。総数が飽和しているのであれば、この差はもっと小さくなっているはずです。実際には、同じ資格で同じ仕事をする人の密度が、住む場所によって1.6倍違う。飽和は全国一様ではなく、場所の問題だということが、この数字から読み取れます。

国はこの偏りを放置していません。令和5年の「薬剤師確保計画ガイドライン」では、薬剤師の地域偏在と業態偏在——とりわけ病院薬剤師の不足——を課題として明記し、都道府県ごとに薬剤師偏在指標と薬剤師少数区域を設定しています。全国的に余っているのなら確保計画は要りません。この事実は、飽和論を一律に当てはめることの無理を示しています。

ただし、同じ県のなかでも県庁所在地と山間部では状況が違い、「〇〇県は少ない」という粒度だけでは実態を捉えきれません。地域差の実像は別記事で詳しく整理しています。

AI・機械化の話をどう受け止めるか

飽和論とセットで語られるのが、「調剤は機械とAIに置き換わる」という話です。ここは統計で示せる領域ではないので、数字ではなく、国が示してきた方向性の範囲で整理します。

厚生労働省は、薬剤師の業務の重心を対物業務から対人業務へ移す方向を、近年繰り返し示してきました。調剤の機械化や自動化はこの文脈のなかにあり、薬剤師をなくすためではなく、薬剤師の時間を対物業務から対人業務へ振り向けるための手段として位置づけられています。薬剤師確保計画ガイドラインが病院薬剤師の不足を課題としているのも、同じ方向の話です。病棟での薬学的介入や多職種連携といった対人業務の担い手が足りない、という認識がそこにはあります。

この整理に立つと、不安の中身を切り分けられます。置き換えの対象は「業務」であって「資格」ではない。ピッキングや監査の一部、在庫管理のような対物業務は、機械化の影響を受けやすい領域です。一方で、処方提案、副作用のモニタリング、在宅患者の服薬管理、患者や家族との対話を通じた判断——こうした対人業務は、国が薬剤師に求めている側の業務です。どの業務が、いつ、どの程度置き換わるかの予測は、この記事ではしません。

自分のキャリアに引きつけて考えるなら、問いは「薬剤師は残るか」ではなく、「自分の日々の業務のうち、対人業務の比重はどれくらいか」です。答えが「ほとんど対物」であれば、それは資格の問題ではなく、いまの職場での業務配分の問題として扱えます。

動くなら押さえる3つの軸

ここまでの整理を踏まえて、もし転職や異動を考えるのであれば、統計が示す偏りを判断の軸にする、という考え方があります。動くことを勧めているわけではありません。動く場合の軸として、3つ挙げます。

1つ目は場所です。偏在を逆手に取る、という考え方になります。人口あたりの薬剤師数に約1.6倍の差があり、国が少数区域を設定している以上、薬剤師が集まりにくい区域では確保のために条件を整える動機が採用側に生まれます。ただし濃淡は、同じ県のなかでも地域によって違います。転居を伴う選択だけでなく、いまの生活圏で通勤圏を広げる、薬剤師が集まりにくい立地を選ぶといった中間解も含めて、「どこで働くか」を選択肢に入れることです。

2つ目は業態です。施設別の平均年齢が示すとおり、病院から薬局へという流れは多くの人が通る道です。逆方向は、ブランクが長くなるほど急性期領域への復帰のハードルが上がる傾向があります。注射薬の調製や病棟業務、多職種連携といった病院経験は薬局では再取得しにくい資産であり、しかも国が不足を明記している側の業態です。いま病院にいるなら、その経験をどこまで取り切ってから出るか。薬局にいるなら、在宅など臨床との接点が濃い職場を選ぶか。業態の選択は、飽和論とは独立した資産設計の問題です。

3つ目は対人業務の経験です。前の節で整理したとおり、国が薬剤師に求めている側に寄っているのは対人業務です。在宅医療への関与、かかりつけ薬剤師としての継続的な患者対応、多職種とのやりとり。こうした経験は職務経歴に残り、次の職場でも説明できる資産になります。逆に、対物業務だけで何年も経過した経歴は、機械化の影響を受けやすい側に自分を置き続けることを意味します。職場を選ぶときに給与や休日と並べて、対人業務にどれだけ時間を使える職場かを確認項目に入れておく価値があります。

3つに共通するのは、「飽和」「AI」という言葉を、統計と国の方向性が示す「偏り」に置き換えて判断材料にしている点です。恐怖から逃げる転職は行き先の検証が甘くなり、偏りを踏まえた転職は行き先の根拠を自分で説明できます。

よくある質問

薬剤師の数は今後も増え続けますか?

直近の統計では、届出薬剤師は前回比1.7%増でした。ただし今後の総数は養成数や退職者数、就業の動向で決まるもので、この記事では将来の人数を予測していません。総数がどう動くかにかかわらず、業態と地域の偏りは現に存在し、国が確保計画をつくって対応しています。総数の予測よりも、自分がどの業態・どの地域で働くかのほうが、キャリアへの影響は直接的です。

「AIで薬剤師はいらなくなる」という話は本当ですか?

国が示している方向性は、薬剤師をなくすことではなく、対物業務から対人業務への重心の移動です。機械化の影響を受けやすい業務と、薬剤師に求められている業務は分けて考える必要があります。「いつまでに何割が置き換わる」といった予測値は一次資料に基づくものではないことが多いので、根拠の出どころを確認してから受け取ることをおすすめします。

不安なので、いまのうちに転職したほうがよいですか?

不安そのものは転職の理由として弱い、というのが当編集部の立場です。飽和やAIへの不安は、業務配分や勤務地の問題として具体化できることが多く、具体化すれば「いまの職場で変えられること」と「職場を変えないと変わらないこと」に分かれます。後者が多く、しかも行き先の根拠を統計や国の方針で説明できるなら、動く判断に合理性があります。転職のタイミングの考え方は別記事で整理しています。

まとめ

  • 届出薬剤師は329,045人で前回比1.7%増。増えている事実はあるが、増加と余剰は別の話で、余剰かどうかは人数だけでは決まらない
  • 従事先別では薬局が3.5%増、医薬品関係企業が7.8%減(店舗販売業は17.2%減)。減っているのは企業側で、職場は調剤の現場側へ移っている
  • 人口10万人あたりの薬剤師数は徳島県256.6人から沖縄県155.3人まで約1.6倍の差。国は薬剤師確保計画ガイドラインで偏在指標・少数区域を設定しており、飽和は全国一様ではない
  • AI・機械化については、国の方向性は対物業務から対人業務への移行。置き換えの対象は業務であって資格ではなく、対人業務の比重が判断材料になる
  • 動くなら、場所(偏在を逆手に取る)・業態(病院経験は再取得しにくい資産)・対人業務の経験(在宅・かかりつけ)の3つを軸に、行き先の根拠を自分で説明できる形にする

参考にした一次資料

本文の統計・条文はこれらの原典を編集部が直接確認したうえで引用しています。数値は調査年の更新に合わせて見直します。

制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。

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白衣キャリア編集部

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