「免除を取り下げるべきでしょうか」という最後の問いに、先に答えます。いますぐ取り下げる必要はありません。ただし、いまの苦しさを「気にしすぎ」として片づけるつもりもありません。半年たっても消えない感覚には、たいてい現実的な根拠があります。この記事では、その根拠がどこにあるのかを確かめたうえで、取り下げ以外に出せる選択肢と、同僚との関係でできること、逆に長続きしない埋め合わせ方を順に整理します。
申し訳なさの宛先を確かめる
休憩室で「今月8回入った」と聞いて苦しくなったのは、あなたが優しいからというより、その言葉が事実だからです。誰かの夜勤が実際に増えている。そこは目をそらす必要がありません。
確かめたいのは、その増えたぶんがどこで生まれたかです。あなたの夜勤がゼロになったとき、病棟が取れる対応は本来いくつもあります。夜勤要員の補充、応援体制の見直し、夜勤回数の上限設定、そもそもの勤務表の組み方の変更。そのうちどれも取られず、同じチームの一人に寄せる形で埋められているのなら、それは請求した人の責任ではなく、配置を決める側が選んだ結果です。
夜勤が特定の人に集中しやすい構造は、あなたが免除を取る前から病棟にあったものです。誰かが妊娠しても、体調を崩しても、家族の介護が始まっても、同じことが起きます。免除はその構造を表に出しただけで、原因ではありません。申し訳なさの宛先を、同僚ではなく体制のほうに向け直すところから始めてください。
これは「だから気にしなくていい」という話ではありません。宛先を取り違えたまま自分を削ると、打つ手が「自分が我慢する」しかなくなります。宛先が体制なら、相談できる相手も、出せる提案も変わります。
制度の側から見ると何が起きているか
夜勤免除の根拠は、お子さんの年齢によって変わります。育児・介護休業法19条は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が請求した場合、事業主は午後10時から午前5時までの間に労働させてはならないと定めています。1歳のお子さんであれば、この条文が根拠になります。
この条文には、押さえておきたい点が2つあります。
1つは、これが事業主に向けられた義務だということです。条文は「同僚に負担をかけてよい」とは書いていません。事業主に対して、深夜に働かせないことと、そのうえで事業を回すことの両方を求めています。夜勤の穴をどう埋めるかは、請求した人ではなく事業主が考える範囲です。
もう1つは、不利益な取扱いが禁じられていることです。同法20条の2は、請求したことや深夜に働かなかったことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。直接的な処分だけでなく、職場の空気として不利益が生じている場合も、相談の対象になり得ます。「制度上は通っているのだから我慢するしかない」と考える必要はありません。
なお、産後1年以内の方であれば労働基準法66条が根拠になり、条件が変わります。免除が認められにくいケースや、拒否されたときの手順については、育休明けの夜勤免除ができない理由は?労基法66条と育介法19条で確認で詳しく扱っています。
取り下げる前に出せる提案
いま考えている「月1〜2回だけ夜勤に入る」という案そのものは、悪いものではありません。問題は、それを免除の取り下げとして出してしまうことです。
取り下げると、制度上の根拠がなくなります。そのあとで体調を崩したり、お子さんの状況が変わったりして再び免除が必要になったとき、もう一度請求すること自体はできますが、職場との話は「一度取り下げた人がまた言い出した」という文脈になります。同じ内容でも、通り方が変わります。
出し方を変えるだけで、残せるものがあります。たとえば次のような形です。
- 免除は継続したうえで、月◯回までなら準夜帯に入れる、という申し出を別に出す
- 入れる曜日や時間帯を具体的に示す(家族が対応できる日に限る、など)
- 期間を区切る(3か月ごとに見直す、など)
- 深夜帯そのものではなく、夕方の繁忙時間や早出で協力する案を出す
いずれも、口頭で伝えたあとに簡単な書面かメールで残しておくことをおすすめします。あとで解釈が食い違ったとき、書面があるかどうかで話の進み方が変わります。
この出し方なら、同僚の負担にも実際に効きますし、制度上の立場も維持できます。そして何より、協力する範囲を自分で決められます。取り下げてしまうと、範囲を決めるのは勤務表を組む側になります。
同僚との関係でできること
制度の話とは別に、目の前の人間関係をどうするかという問題が残ります。ここは正直なところ、制度では解決しません。
やっておくと効くことは、いくつかあります。夜勤明けの人が日勤帯に残っている業務を引き受ける。急な欠員のとき、日勤側で動ける範囲を先に申し出る。夜勤に入っている人の希望休が通りやすいよう、自分の希望を後ろに置く。どれも小さなことですが、「免除されている人が何もしていない」という印象とは違う現実を作ります。
言葉についても一つ。「ごめんね」を繰り返すより、「助かっています」と具体的に伝えるほうが、受け取る側は返しやすいものです。謝られ続けると、相手は「気にしていない」と言うしかなくなり、会話がそこで止まります。
一方で、長続きしない埋め合わせもあります。休憩を削る、時間外を引き受けすぎる、家庭の事情を押して日勤を増やす。こうした形の埋め合わせは、数か月は持っても、そのあとで体調か家庭のどちらかに出ます。そして倒れたときに困るのは、結局また同じチームです。罪悪感を燃料にした働き方は、職場のためにもなりません。
それでも空気が変わらないとき
半年続けても休憩室に居づらいままなら、環境のほうを動かす検討に入って構いません。
まず、師長との面談を「愚痴」ではなく「配置の相談」として設定してみてください。「私が申し訳ないので」ではなく、「夜勤が特定の人に偏っている状態が続いていて、チームとして持たないのではないか」という切り口のほうが、管理する側は動きやすくなります。夜勤回数の実績を、可能な範囲で数字にして持っていけるとなお良いです。
病院内に相談窓口があれば、そちらも使えます。社内で解決しない場合は、各都道府県の労働局にある雇用環境・均等部門が、育児・介護休業法に関する相談を受け付けています。総合労働相談コーナーでも構いません。いずれも無料で、相談したこと自体を理由に不利益を受けることは想定されていません。
そのうえで、異動や転職も選択肢として持っておいてください。夜勤免除を「例外」として扱う職場と、日勤常勤という枠が最初から用意されている職場では、同じ制度でも居心地がまったく違います。後者を選べば、申し訳なさという感情自体が発生しません。外来、クリニック、健診、訪問看護など、日勤中心で働ける場は夜勤なしで働きたい看護師の選択肢に整理してあります。
いま転職を決める必要はありません。ただ、「ここで我慢し続ける」以外の道があると知っているだけで、日々の選択の重さは変わります。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 夜勤の穴が特定の人に寄っているのは、請求ではなく配置の結果だと切り分けられたか
- 育介法19条が事業主への義務であること、20条の2で不利益取扱いが禁じられていることを確認したか
- 「免除の取り下げ」ではなく「別の形での協力」として提案する案を書き出したか
- 協力できる回数・曜日・期間を、自分の側で具体的に決めたか
- 申し出た内容を書面かメールで残したか
- 「ごめんね」ではなく「助かっています」で伝える形に切り替えたか
- 休憩を削る、時間外を増やすといった、続かない埋め合わせをしていないか
- 師長との話を「配置の相談」として設定し直したか
- 労働局の雇用環境・均等部門など、社外の相談先を調べたか
- 日勤中心で働ける職場という選択肢を、情報として持っているか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。
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