「20日分は、諦めるしかないのでしょうか」。先に答えます。諦める必要はありません。有給休暇は、退職する人にも、これから働き続ける人にも、同じ法律のもとで与えられています。「辞める人に有給は出せない」という言葉は、職場の慣習ではあっても、法律の内容ではありません。この記事では、法律が定めていることを確認したうえで、申請の出し方、退職日の調整、それでも応じてもらえないときの相談先を順に整理します。
法律が定めていること
有給休暇は労働基準法39条に定められています。同条5項は、使用者は有給休暇を「労働者の請求する時季に」与えなければならないとし、ただし請求された時季に与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、「他の時季に」与えることができる、としています。
この「他の時季に与えることができる」という部分が、会社に認められている時季変更権です。ここで押さえておきたいのは、時季変更権は、休暇をなくす権利ではなく、別の日に移す権利だという点です。
退職する人の場合、退職日を過ぎれば労働者ではなくなり、休暇を与えることができる日はなくなります。条文が認めているのは「他の時季に与える」ことだけなので、退職までの間に移せる日がなければ、変更のしようがありません。退職日までに消化する申請に対して、会社が「人が足りないから」を理由に断り続けることは、法律上の根拠を欠いています。
もう1つ、同法136条は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定めています。消化したことを理由に、退職金や最後の月の評価を下げるような扱いは、この趣旨に反します。
また、同法39条7項は、年10日以上の有給休暇が付与される労働者について、そのうち5日を使用者が時季を定めて取得させることを義務づけています。20日残っているということは、今年度の分もほとんど使えていない可能性があります。会社には、あなたに休ませる義務があったというのが、法律の立て付けです。
「非常識」という空気について
同期がみんな数日しか使わずに辞めている、という話は、看護の現場ではめずらしくありません。人が足りない病棟で、最後まで働いてくれた人が評価され、権利を使った人が白い目で見られる。その空気の中で、一人だけ20日使うと言い出すのは、たしかに勇気がいります。
ただ、少し引いて見てください。有給休暇は、働いた期間に応じて法律が与えたものです。それを使わずに辞めることは、働いた対価の一部を職場に置いていくことと同じです。20日分の給与に相当します。「非常識」と言われて置いていく金額としては、大きすぎます。
そして、人が足りないのは、あなたの退職とは別に、配置を決める側の課題です。辞める人が権利を手放すことで穴埋めをする形が続く限り、その課題は表に出ません。あなたが消化することは、次に辞める人が同じ空気に押されずに済む前例にもなります。
申請の出し方
口頭で「消化したい」と伝えて「無理」と言われて終わると、何も残りません。次の順番で進めてください。
まず、退職日と、消化したい日付を具体的に決めて、書面かメールで申請します。退職届と有給休暇の申請を同じタイミングで出すと、退職までの勤務日が一目でわかり、話が具体的になります。「最終出勤日は◯月◯日、◯月◯日から退職日までの◯日間を有給休暇として申請します」という形です。
断られた場合は、理由を書面で示してもらうよう求めます。「人が足りない」だけでは、法律上の理由になりません。時季変更をするなら、いつに変更するのかを示す必要があり、退職日までにその日がなければ変更は成り立ちません。
そのうえで、どうしても引き継ぎの期間が必要だと言われるなら、退職日を後ろにずらして、消化の日数を確保するという提案ができます。次の職場の入職日との兼ね合いがあるので、簡単ではありませんが、消化を諦めるよりは現実的な選択肢です。次の職場に事情を話して、入職日を調整してもらえることもあります。
退職の切り出し方や引き止めへの対応は転職先は決まったのに、師長に退職を言い出せませんに整理しています。
それでも応じてもらえないとき
師長の段階で止まるなら、看護部長や人事の部署に相談してください。師長個人の判断で止まっているのか、病院として方針があるのかで、対応が変わります。
病院の中で解決しない場合は、労働基準監督署に相談できます。有給休暇の取得は労働基準法に定められた事項で、監督署の所管です。相談の際は、申請した日付と内容、断られた日付と理由、退職日を、時系列でまとめて持っていくと話が早く進みます。
申請を書面で出し、理由を求め、上に相談し、それでも動かないときに外の窓口へ。この順番を踏んでいれば、「いきなり訴えた」と受け取られることはありません。
退職日を過ぎてしまうと、休暇を取る余地はなくなります。動くなら、退職日が決まったいまが、いちばん早い時期です。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 有給休暇の残日数を、給与明細や勤怠システムで正確に確認したか
- 退職日と、消化したい日付を具体的に決めたか
- 退職届と有給休暇の申請を、書面かメールで出したか
- 断られた場合、理由と「いつに変更するのか」を書面で示すよう求めたか
- 退職日を後ろにずらして消化の日数を確保する案を、次の職場の入職日と合わせて検討したか
- 師長で止まる場合、看護部長や人事に相談したか
- 労働基準監督署に相談する場合に備え、経緯を時系列で記録しているか
- 消化を理由に評価や退職金を下げる扱いがあれば、その事実を記録しているか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の就業規則や専門家にご確認ください。
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